このような若手医師の生き方は、私がグランドデザインを描き、強制したわけではない。彼ら自身が試行錯誤を繰り返し確立したものだ。

 　福島での診療はやりがいがある仕事だが、症例数も少なく、十分な経験は積めない。特に研究は見劣りがする。
幸い福島と東京は近い。東京から南相馬に行くのに要するのは約4時間だ。二箇所勤務を続けるうちに、「東京から南相馬に行くのも、上海に行くのも変わらない」との意見が出てきた。

　これまで私たちは上海の復旦大学と共同研究を続けてきた。2017年、森田医師は復旦大学に約一ヶ月間留学している。上海はダイナミックだ。意志決定は速く、規模は大きい。また、現在ノウハウを有する人材を求めている。我々は今までに、復旦大学と共同で『ランセット』のレターなども含め10報以上の学術論文を発表してきた。
最近、我々のチームが復旦大学を訪問した際に、坪倉医師は先方に嶋田医師の働き方を提案した。とりあえずは共同研究から入るが、診療まで拡充させたいという考えである。
上海と東京と所要時間は約3時間。費用は格安航空券を使えば往復で3万円。南相馬と東京を往復するのとに大差にはないはのである。
 
 　超高齢化が進むわが国で、脳外科のような高度医療のニーズは減少する。人口減少が進む南相馬はなおさらだ。では南相馬で働きながら、経験を積むのはどうすればいいか。私は東アジアと連携することだと考えている。

 　地域の医師不足を解決するため、若手医師を地域に強制派遣する議論が盛り上がっている。私は浜通りで活動を続けているが、このようなやり方が上手くいった例をみたことがない。
 嶋田医師は「給料は減らされてもいい。非常勤でもいい。この地域に軸足をおいて、さまざまな経験を積みたい」と言う。彼の理想は、週の前半を南相馬市で、後半を広島と上海で働くことだ。先だって病院長に要望を伝えた。

 　どうすれば若手医師を育てながら、地域医療を守れるか、既成概念にとらわれず柔軟に考えなければならない。
 
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