現在、嶋田医師は岐路に立たされている。彼は南相馬市立総合病院で脳外科を続けながら、新しい可能性にもチャレンジしたい希望がある。
ところが、彼がエムネスで診断業務に携わると兼業規制に抵触する。どうしてもやりたければ、病院を辞めるしかない。
 　従来、他の施設が有する先進的技術を学ぶなら、研修目的で出張するのが通常だった。
なぜ、南相馬市立総合病院とエムネスの二ケ所勤務に拘るのだろうか。それはエムネスとの共同研究が長期にわたるため、嶋田医師が研修生や見学者としてではなく実務担当者として関わらなければ、実効性のある仕事ができないからだ。このためには複数箇所で正式に勤務することとなり、兼業規則に抵触してしまうのである。
 
　私たちのチームでは複数箇所で働く若手医師が多い。坪倉正治医師がそうだ。相馬市の相馬中央病院特任副院長を「本職」に、福島県立医大の特任教授および南相馬市立総合病院・ひらた中央病院（福島県平田村）・ときわ会常磐病院（福島県いわき市）、ナビタスクリニック立川（東京都立川市）で診療している。

 海外との兼業を始めた者もいる。森田知宏医師だ。2012年に東大を卒業し、嶋田医師の同期だ。亀田総合病院での初期研修を終え、相馬中央病院に内科医として就職した。現在は日曜の当直から水曜までを相馬中央病院で勤務し、木曜と金曜は東京のベンチャー企業miupに取締役として勤務する。
miupの業務はバングラデシュでの医療ビジネス、特に臨床検査ビジネスの立ち上げだ。森田医師は、毎月一週間程度、バングラデシュで勤務する。仕事柄、地元の医師と交流する。会社の業務の一環として臨床研究を進めるとともに、経済面も含め、バングラデシュの若手医師を支援する。昨年はアビデュラ・ラーマン医師が福島医大の病理学教室に留学した。
 
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