立派な為政者に対して、国民の敬愛の情が深いことのたとえをいった四字熟語です。
【甘棠】は、バラ科の果樹「やまなし」の類といわれてます。
周の宰相・召公(ショウコウ)奭(セキ)は、甘棠の木の下で憩い、人民の手間を取らせまいとして、そこで訴訟などを聞いたことから、人民にしたわれるようになったそうです。
そのことが、『詩経』召南の「甘棠」と題する詩として残っています。
蔽芾(ヘイハイ)たる甘棠は、
こんもりと茂った甘棠の木。
翦(き)る勿(なか)れ、伐(き)る勿(な)かれ
剪ってはならぬ、伐ってはならぬ。
召伯の茇(やど)りし所
召伯さまが茇(やど)られたところ。
蔽芾たる甘棠は、
こんもりと茂った甘棠の木。
翦る勿れ、敗(そこな)ふ勿かれ
剪ってはならぬ、傷つけてはならぬ。
召伯の憩(いこ)ひし所
召伯さまが憩(やす)まれたところ。
蔽芾たる甘棠は、
こんもりと茂った甘棠の木。
翦る勿れ、拜(ぬ)く勿かれ
剪ってはならぬ、抜いては成らぬ。
召伯の説(やど)りし所
召伯さまが説(やど)られたところ。
詩に残る程、人々に慕われた召公は、よほど立派な為政者だったのでしょう。
他の為政者は、詩に残っていないということから察しますに、それほどでもなかったというところなんでしょうか。
宮城谷昌光さんの『侠骨記』の「甘棠の人」は召公奭を題材にしています。