世間の流れや、政府の施政の誤りに、憤(いきどお)り、苛立ちや焦りを覚えることを表した四字熟語です。
【憤】は、「忄+賁」からできた、形声文字です。音符号の「賁」は、花がいっせいに開き始める形で、
中にある力が勢いよく外にあらわれるの意味があります。
心の中にある怒りが外にあらわれることをいいます。
【懣】は、「心+滿」からできた、形声文字です。音符号の「滿」は、みちるの意味で、心に滿ちてくる
もだえの意味を表します。
【憤懣】は、憤り、もだえることを表します。
『憤懣遣(や)る方(かた)無い』は、腹が立ってどうしょうもない、怒りの遣り場がない、
と言う意味です。
【焦】は、「隹+灬」からできた、会意文字です。隹(とり)に火を加えて、隹を焼くことを言います。
「やく、こげる、こがす」から、人の心情として「こがれる、あせる、じれる」の意味になりました。
【燥】は、「火+喿」からできた、形声文字です。音符号の「喿」は多くの口(祝詞を入れる器の形)を
木につけて、神に捧げてさわがしく祈りの声をあげる様子を表します。
さわがしい音をしてこげることから、かわくの意味が生まれました。
【焦燥】は、苛立ち焦ることを表します。
中島敦『弟子』十三章に【憤懣焦躁】がでています。
衛に出入すること四度、陳に留まること三年、曹(そう)・宋・蔡・葉・楚と、子路は孔子に
従って歩いた。
孔子の道を実行に移してくれる諸侯が出て来ようとは、今更望めなかったが、しかし、
もはや不思議に子路はいらだたない。
世の溷濁(こんだく)と諸侯の無能と孔子の不遇とに対する【憤懣焦躁】を幾年か繰返した後、
ようやくこの頃になって、漠然とながら、孔子及びそれに従う自分等の運命の意味が
判りかけて来たようである。
中島敦の『弟子』は、漢字検定1級の読み書き問題によく出題されています。