【曾参(ソウシン)、人を殺す】と訓読みされまして、間違った噂も多くの人が口にしているうちに、
誰もが信じてしまうことを表した四字熟語です。
【曾母(ソウボ)投杼(トウチョ):曾母、杼(ひ)を投ず】とも言われます。
『戦国策』秦策のなかにでてきます。讒言(ザンゲン)を信じないようにさせるための説話として使われました。
曾参(B.C.506年~没年?)は、孔子の弟子で、大変に親孝行であったと伝えられています。
曾参が、費(ヒ)という町に居たときのことです。
たまたま、曾参と同姓同名の人が、人を殺しました。それを伝え聞いた人が、曾参の母に
慌てて、その事実を教えました。
【曾参が人を殺したぞ】
曾参の母は、私の息子は人を殺したりしません。と言って平気で機を織っておりました。
暫くして別の男が、【曾参が人を殺したぞ】と知らせましたが、
曾参の母は、それでもまだ平気で機(はた)を織っておりました。
やや暫くして、また別の男が、【曾参が人を殺したぞ】と知らせました。
すると、曾参の母は、仰天して杼(ひ)を投げ出すと、垣根を飛び越えて走りだしました。
曾参から約200年後、秦の武王(B.C.311~B.C.307)のとき左丞相(サジョウショウ)の甘茂(カンモ。またはカンポウ)が韓を攻めるよう命じられました。
甘茂は留守中、国内で自分の失脚を図る者が讒言(ザンゲン)を繰り返すのを予想して、
【曾参殺人】の故事を用いて武王に語り、安易に他人の讒言を信じないように約束させました。
このような説話に使われるという事は、逆に曾参と母との間の深い信頼関係が当時の人にとっては有名なというかむしろ常識であったのではないかと思われます。