多ければ多いほど上手いことやって見せます、という意味です。
【多々益ベンず】の「ベン」は【辦】という字が使われています。
【辦】は「あつかう。処理する」という意味ですから、【多々益辦】は「多ければ多いほど、それらを使って上手に(戦を)処理して見せます」という意味になります。
【辦】に限らず、「辨・辧:ベン。わける。辨(弁)別」、「辯:ベン。言葉でおさめる。辯(弁)護士」、「辮:ベン。あむ。辮(弁)髪」、「瓣:ベン。瓜のなかご。花瓣(弁)」は「弁」の旧字体という人がいますが間違いです。画数が多いため略字として代用しているのです。
「弁」という字は、「かんむり」を表す字として作られました。
項羽との覇権争奪に勝利をおさめた、漢の高祖(劉邦)が、名将韓信と戦いを回想して、各将軍の能力を論評しました。
上問曰、如我能將幾何。
上問いて曰く、我のごときは能(よ)く幾何(いくばく)に将たるか、
私はどれほどの兵数の将軍になれるか
信曰、陛下不過能將十萬。
信曰く、陛下は十万に将たるに過ぎず、と。
韓信は、陛下は十万くらいでしょう、と答えました。
上曰、於君何如。
上曰はく、君に於いては何如、と。
高祖が言いました。お前はどうなんだ
曰、臣多多而益善耳。
曰く、臣は多々益々善なるのみ
私は多ければ多いほど善い(うまく使いこなします)、といいました。
以上は『史記』淮陰(ワイイン)侯列伝の記述です。【多多益善】と【善】になっていますが、
『漢書』の韓信伝で【多多益辦】となっています。『十八史略』も【多多益辦】です。
【多多益辦】には続きがあります。
高祖は多少面白くなかったのでしょう。
【多多益辦】のお前が、なぜ俺の家来になったんだ、と怒気を込めた笑顔で聞きました。
韓信、待ってましたとばかりに
陛下は、兵に将たること能はざるも、善く将に将たり。
陛下は兵士の将軍となるのは下手ですが、将軍の将軍となる技量があります。
且つ陛下は所謂(いわゆる)天授にして、人力に非ざるなり。
また、陛下の能力は、いわゆる天授のもので、人間一人の能力ではないのです。
言うも言ったり。これで高祖の機嫌も直ったことでしょう。