【思いがけない禍】のことを言います。
【毋】は、漢音ブ、呉音ムです。意味は、「~なかれ。なし」などの助字としてもちいられます。
「母」と言う字とは違います。
「母:はは」と言う字は、縦にテン、テンです。テン、テンをつなげて縦棒にしてしまいますと【毋:なかれ】という別の字になってしまいます。
毎や海や梅の字に入っている【毋】は正字体では「母」です。常用漢字体で【毋】にしてしまいました。
【毋望(意外)の禍】、【毋望の福】、【毋望の人】という言葉が、『史記』春申君列伝にでています。
司馬遷が春申君(シュンシンクン)列伝をまとめた理由を次のようにいってます。
春申君が秦の昭王を説き伏せ、楚の太子を逃げかえらせた英知は立派であった、でも後に
李園(リエン)に翻弄(ホンロウ)されたのは、耄碌(モウロク)したからだろう。
「当(まさ)に断ずべくして断ぜざれば、反(かへ)って其の乱を受く」と言うが、
春申君が朱英(シュエイ)の進言を用いなかったことをいうのであろうかと。
列伝の本文では
朱英、春申君に謂いて曰く、【世に毋望(意外)の福】有り。又【毋望の禍】有り。
朱英が春申君に言いました。世の名には思いがけない幸いがあり、また思いがけない禍があります。
今君は毋望の世に処り、毋望の主に事う。
あなたは今、禍福定めなき世にあって、愛憎定めなき主君に仕えています。
安んぞ以て【毋望の人】無かる可けんや。
どうして禍をまぬがれさせる人がいなくていいものでしょうか。
【毋望の福】というのは、今楚の王様は明日をも知れぬ状態です。王が亡くなってしまったら、
あなたが王になりなさい。これが、思いがけない幸せです。
【毋望の禍】というのは、李園は楚王が亡くなったら、必ずあなたを殺します。
これが思いがけない禍です。
【毋望の人】というのは、私(朱英)を宮中の役人にしてください。そうしてくださるのなら、
李園があなたを殺す前に、私が李園を殺します。これが思いがけない人です。
結局春申君は朱英の進言を取り上げませんでした。
楚の王が亡くなりますと、朱英が予想した通り、春申君は李園に殺されてしまいました。
9月2日は語呂合わせで『9(く)2(じ)』の日だそうです。
「くじ」という漢字は「籤」、「鬮」です。「鬮」は鬥(たたかいがまえ)+龜(かめ)です。
『今日の四字熟語』を読んで頂いている方に【毋望の福】がありますように。