【一薫】は、一本の香草、香りのよい草です。
【一蕕】は、一本の悪臭を放つ草のことです。
【蕕】は、カリガネソウのことをいいます。秋に靑紫色の花をつけますが、悪臭があります。
【一薫一蕕】は、香草と臭草とを一緒におくと、良い香りは消されて悪臭のみが残ってしまうことを言います。このことから、善いことは消えやすく悪いことは消えないで残ってしまうことのたとえに用いられます。
更に言えば、善人が悪人に害されて、禍(わざわい)が長く残ることの譬えにも使われます。
【薫蕕器を同じうせず】、【氷炭相容れず】などの成語と類義の四字熟語です。
【一薫一蕕】は、『春秋左氏伝・僖公(キコウ)四年のところにでています。
晋の献公、驪姫を以て夫人と為さんと欲す。
晋の献公は驪戎(リジュウ)討伐で得た驪姫(リキ)を夫人にしようと思った。
之を卜す、不吉なり。
最初に亀甲による占いをすると「不吉」という結果がでたので、
之を筮(ゼイ)す、吉なり。
次に筮竹を使って占わせたところ「吉」であるという結果がでた。
公曰く、
そこで献公が云う。
筮に従はん、と。
筮に従おう、と。
卜人曰く、筮は短く亀は長し、長きに従ふに如かず。
これに対して卜人(ボクジン)が云う。筮よりも亀の言葉の方が優れております。
亀に従うほうが宜しいでしょう。
且つ其の繇(ヨウ:うらないのことば)に曰く、
亀のうらないには次のように出ております。
之を専らにせば渝(かは)り、公の羭(ユ:おひつじ)を攘(ぬす)まん。
これだけを寵愛すれば増長して心が変わり、やがて公の牡羊を盗むことになろう。
一薫一蕕、十年尚(な)ほ猶(な)ほ臭有り、と。 必ず不可なり、と。
香草と臭草を一緒にすれば十年経っても臭いが残ります。
夫人にするべきではありません、と。
聴かず、之を立つ。
献公はききいれずに驪姫を夫人にしました。