突然、降ってわいたような幸運のことを言います。
【無妄】は、漢音でムボウ、呉音でムモウとよみます。
① あざむかない。 いつわらない。
② 思いがけず(突然)におこること。
の意味があります。
【無妄之福】は、② 思いがけず(突然)におこる幸福の意味となります。
『戦国策』楚策の「楚の考烈王、子無し」の条で春申君(シュンシンクン)に絡んだ話として【無妄之福】がでてきます。
春申君の食客に李園(リエン)という者がいました。
李園は妹が美人であったことから、考烈王に差し出して出世しようと企みました。
まず春申君に妹を差し出しました。春申君はその妹を寵愛しました。
その後、李園の妹は春申君の子を身篭ります。
李園は考烈王に子が無いことに付け込んで、
妹に「私を王に献上し、腹の中の子を王の子として、次代の王にすれば、楚はあなたの思うままになります」と春申君に吹き込ませました。
春申君はこの策を受けてしまい、考烈王に進言し李園の妹を献上しました。
彼女は王后となり、李園も高位に登りました。
その後、李園は事の露見を恐れて春申君の命を狙うようになり、危機を覚えた春申君の食客の
朱英(シュエイ)は、【無妄之福(さいわい)】、【無妄之禍(わざわい)】をもって春申君に語りかけました。
朱英、春申君に謂って曰く、世に【無妄の福】あり、また【無妄の禍】ある。
朱英が春申君に説いて言った、
世の中には、思いもよらぬ福いがあり、また、思いもよらぬ禍いがあるものです。
いま、君、無妄の世に處(お)り、以て無妄の主に事ふ。
いま、君には、禍福の常ない世に在って、喜怒の常ない主に仕えておいでです。
安(いずく)んぞ無妄の人有らざらんや、と。
どうして思いもよらぬ人物が現れないことがありましょう。
(思いもよらぬ人物が現れますから、よくよく心せられよ)
春申君は、朱英の進言を容れなかったため、B.C.238年 李園に殺されてしまいました。