【一寸光陰】は、ごくわずかな時間のことを言っているのですが、
【一寸の光陰軽(かろ)んず可(べ)からず】と言われまして、ほんのわずかな時間でも無駄に過ごしてはいけない、という戒めの言葉として用いられています。
【一寸光陰】は、南宋の朱熹(シュキ)の作と言われていた『偶成(グウセイ:偶然にできたという意味)』という七言絶句の詩の一節です。
『朱熹:1130年~1200年』は南宋の哲学者で朱子学の創始者です。宋代にはじまった新しい儒学(宋学)を首尾一貫した体系にまとめ朱子学を完成した人です。朱子学は徳川幕府の官学でしたし、近年までわが国思想の背景をなしました。
少年易老学難成
少年老い易く學成り難し
若さのときは束の間で、なのに学びは遅遅として、
一寸光陰不可輕
一寸の光陰軽んず可からず
わずかな時間も、大切に
未覚池塘春草夢
未(いま)だ覺(さ)めず池塘(チトウ:池のつつみ)春草(シュンソウ)の夢
池のつつみの春の草、未だ覚めずに夢の中
階前梧葉已秋風
階前(カイゼン:階段の前)の梧葉(ゴヨウ)已(すで)に秋聲(シュウセイ)
覚めれば梧葉に秋の風
近年の研究によりますと
かなり以前から、朱熹の詩文集にこの作品(偶成)は見当たらないことが指摘されていたようです。平成に入ってから、近世以前のいくつかの詩文集に、ほぼ同じ内容の詩が、異なる題と作者名を伴って収録されていることが指摘されるようになりました。
実際は日本の禪僧の作だとも言われているようです。