人のいない寂しい谷間に暮らしている時、思いがけなく人が訪ねてくることを表します。
ここから、久しぶりに人の訪れを受けて喜ぶことも表します。
【空谷】は、人気のない寂しい谷間のことです。
【跫音】は、足音の意味です。特に人のいない寂しい谷間に聞える足音を言います。
『荘子』徐無鬼篇にでています。
夫逃虚空逃者、
夫(か)の虚空(キョクウ)に逃(のが)るる者は
いったい、世間を逃れて人里離れて荒れ果てた土地に行き、
黎藋柱乎鼪鼬之逕。
黎藋(レイチョウ:あかざ)、鼪鼬(セイチュウ)の逕(みち)に柱(ふさ)がる。
黎のような雑草が、鼪(むささび)や鼬(いたち)の通る細い道まで
ふさいでしまうほど、
踉位其空、
其の空に踉位(リュウイ:長い間の意)すれば、
長い間、谷間に暮らしていると、
聞人足音跫然而喜矣。
人の足音、跫然(キョウゼン)たるを聞きて喜ぶ。
人の足音がかさこそと聞えただけで、嬉しくなるものです。
『荘子』は例え話をふんだんに使って「無為自然」を説いています。
この【空谷跫音】では一国の王が、この場合は魏の武侯ですが、眞人(シンジン:道の奥義をさとり得た人)に巡り合える喜びは、【空谷】に【跫音】を得た程に匹敵するものである、と言っています。