権力のある者の威力を借りて、自分勝手に振る舞うことです。
【虎の威を仮(か)る狐(きつね)】と訓読みされます。
出典は『戦国策』です。
中国の戦国時代の前期(前360年頃)、楚の昭奚恤(ショウケイジュツ)は軍・政の実権を握る将軍として北方六国から恐れられていました。そこで六国側は、六国の一つである魏(ギ)の遊説家、江乙(コウイツ)を楚に送り込んで昭奚恤の失脚を謀りました。それに絡んだ逸話として【狐仮虎威】が使われました。
荊(ケイ。楚の別名)の宣王、群臣に問いて曰く、
楚の宣王が、家来たちに、尋ねました、
吾、北方の昭奚恤を畏(おそ)るるを聞く。果たして誠に何如(いかん)、と。
私は、北方の諸国が昭奚恤(ショウケイジュツ)を恐れていると聞いているが、本当か。
群臣対(こた)うる莫(な)し。
家来たちに答える者がいなかった。
江乙(コウイツ)対えて曰く、
江乙が答えてこう(【狐仮虎威】の寓話を)言いました。
虎、百獣を求めて之を食らう。狐を得たり。
虎は、あらゆる獣を捕えて食べます。あるとき狐を捕まえました。
狐曰く、子敢えて我を食らうこと無かれ。天帝、我をして百獣に長たらしむ。
あなたは決して私を食べてはいけません。天の神は、私を百獣の王とされています。
今、子、我を食らわば、是れ天帝の命に逆らうなり。
今、あなたが私を食べれば、それは天の神の命令に逆らうことになるのです。
子、我を以て信ならずと為さば、吾、子の為に先行せん。
あなたが私の言うことをうそだと思うならば、私はあなたのために先に歩いて行きましょう。
子、我が後ろに随いて観よ。百獣の我を見て、敢えて走らざらんや、と。
あなたは私の後ろについてきてよく見なさい。獣たちは私を見て、逃げ出します。
虎、以て然りと為す。故に遂に之と行く。
虎は、よかろうと思い、狐と一緒に歩きました。
獣之を見て皆、走る。
獣たちはそれを見て皆逃げてしまった。
虎、獣の己を畏れて走るを知らざるなり。
虎は、獣たちが自分をおそれて逃げたとは気づかなかった。
以て狐を畏ると為(な)す、と。
狐をおそれているのだ、と思いました。
今、王の地、方五千里、帯甲百万ありて、専ら之を昭奚恤に属す。
王さまの国は方5000里、軍勢100万、昭奚恤はこれを自由に動かすことができます。
故に北方の奚恤を畏るるは、其の実、王の甲兵を畏るること、猶お百獣の虎を畏るるがごときなり、と。
北の国々が奚恤将軍を恐れるのは、実は王さまの威勢を恐れているのです、と言いました。