【歸(かえ)りて細君(サイクン)に遺(おく)るは、何ぞ仁なるや】と読みまして、家に帰って妻に贈るとは、なんという仁愛に満ちたことか、という意味です。
出典は『漢書』東方朔(トウホウサク)傳です。
前漢の武帝(前159~前87)のとき、弁舌と文章にすぐれ、武帝に寵用された東方朔が、伏日(夏季の庚の日)に詔が下って侍従官に肉が下賜されることになった。
日暮れになっても分配の役人が来なかったので、東方朔は剣を抜いて肉を切って、
同僚に向かい、『伏日には早く帰宅してもよいはずだ、戴いて帰りましょう。』と言って、さっさと帰宅しました。役人がそれを奏上しました。
翌日、武帝は大変立腹し、
『立ち上がって自分で叱責せよ』と言いました。
朔再拜曰、朔來 朔來。
朔再拜して曰く、朔來たれ、朔來たれ。
東方朔は再拝して言いました、朔よ、朔よ。
受賜不待詔,何無禮也。
賜を受けて詔を待たざるは,何ぞ無禮なる。
まったくもって、詔(みことのり)も待たず、かってに頂戴いたすとは、なんたる無礼ぞ。
拔劍割肉,壹何壯也。
劍を抜きて肉を割くは,壹(まこと)に何ぞ壯なる。
剣を抜いて肉を切るとは、何と勇壮なことだ。
割之不多,又何廉也。
之を割きて多からざるは,又何ぞ廉なる。
切り取る肉はほんのちょっと、なんと廉直なことか。
歸遺細君,又何仁也!。
歸りて細君に遺るは,又何ぞ仁なるや、と。
おまけに、持ち帰った肉を細君に贈る。なんと仁愛に満ちた行いだ
上笑曰、使先生自責,乃反自譽。
上 笑ひて曰く、先生をして自ら責め使むるに,乃(すなは)ち反って自ら譽む、と。
武帝は大いに笑って言った。自分で自分を責めよと言ったのに、逆に自分を誉(ほ)めるとは。
復賜酒一石,肉百斤,歸遺細君。
復た酒一石、肉百斤を賜ひ、歸りて細君に遺らしむ。
(帝から)さらに酒一石と肉百斤を賜り、帰って細君につかわせた。
『細君』は、東方朔の妻の名前ですが、これがもとになって妻を細君と称するようになりました。