詩文の字句や表現を、あれこれ工夫をして、考え練ることを意味する四字熟語です。
【唐詩紀事】巻四十にでている故事にもとづいて、『月明かりのもとで、門を推(お)したらいいのか、敲(たた)いたらいいのか』迷っている状態、すなわち「推敲」している状態を表した言葉です。
【推敲:スイコウ】の語源ともなった故事です。以下に読み下し文と口語訳を記載します。
賈島(カトウ)挙(きょ)に赴(おもむ)きて京(ケイ)に至(いた)りしとき、
賈島が科挙の試験を受けるために、都(長安)に着いたとき、
驢(ロ)に騎(の)りて詩を賦(フ)し、
驢馬に乗って詩を作っていると、
「僧は推(お)す月下(ゲッカ)の門」の句(ク)を 得(え)たり。
「僧は推す月下の門」という句を思いついた。
【推】を改めて【敲】と作(な)さんと欲(ほっ)す。
その句の「推」(押す)という字を改めて「敲」(叩く)に換えたらどうかな、などと思った。
手(て)を引(ひ)きて推敲の勢(いきおい)を作(な)すも、未だ決せず。
手を動かして「推(お)す」と「敲(たた)く」の動作をしてみたが、決まらなかった。
覚えず大尹(タイイン)韓愈(カンユ)に衝(あ)たる。
考えているうちに、政府の高官:韓愈の行列につき当たってしまった。
乃(すなは)ち具(つぶさ)に言ふ。
(賈島が)非礼にもぶつかってしまった理由をくわしく述べると、
愈(ユ)曰く、「敲の字、佳(よ)し」と。
韓愈は言った、「敲の字のほうがよい」と。
遂(つい)に轡(くつわ)を竝(なら)べて詩を論ず。
そしてついにふたりは、轡を並べて詩を論じ合った。
結局、出来あがった詩は、五言律詩の
『李疑(リギ:人名・詳細不明)の幽居(ユウキョ:静かな侘び住まい)に題す』です。
間居少鄰竝 間居(カンキョ) 鄰竝(リンペイ) 少(まれ)なり
草徑入荒園 草徑(ソウケイ) 荒園(コウエン)に入(い)る
鳥宿池中樹 鳥は宿(やど)る 池中(チチュウ)の樹(き)
僧敲月下門 僧は敲(たた)く 月下の門
過橋分野色 橋を過(す)ぎて 野色を分(わ)かち
移石動雲根 石を移して 雲根(ウンコン)を動かす
暫去還來此 暫(しば)らく去(さ)りて 還(ま)た此(ここ)に來(き)たる
幽期不負言 幽期(ユウキ) 言に負(そむ)かず
文治6年(1190年)2月16日は西行が亡くなった日です。
願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃
の歌で知られる西行ですが、亡くなった日は新暦の季節で言いますと、3月30日頃ですから
願い通り、花(桜)の咲く季節に亡くなったことになります。