【梨花(リカ)一枝(イッシ) 春雨(はるあめ)を帯(お)ぶ】と読みまして、一枝の梨の花が、春の雨にしっとりとぬれている。転じて美人が涙にむせぶたとえです。楊貴妃が涙にくれる樣を詠った句として有名です。
中唐の白居易の詩句です。
『長恨歌』は、7言×120句の長編詩です。【梨花一枝 春雨を帯ぶ】は、ちょうど100句目です。
道士の訪れに驚く楊貴妃の様子が詠まれています。
95 雲鬢半偏新睡覺
雲鬢(ウンビン)半(なか)ば偏(かたよ)りて新たに睡(ねむり)より覚め
雲のようにふわりとした鬢の毛は起きがけのために半ばくずれており
96 花冠不整下堂來
花冠(カカン)整(ととの)えず堂を下(くだ)りて来(きた)る
花の冠も取り乱したかっこうで、奥の間から下りてきた
97 風吹仙袂飄颻擧
風は仙袂(センベイ)を吹いて飄颻(ヒョウヨウ)として挙がり
風が仙衣のたもとを吹いて、ひらひらとひるがえす
98 猶似霓裳羽衣舞
猶ほ霓裳羽衣(ゲイショウウイ)の舞に似たり
あたかもあの霓裳羽衣の舞い姿を思わせる
99 玉容寂寞涙闌干
玉容(ギョクヨウ)寂寞(セキバク)として涙闌干(ランカン)
その美しい顔は寂しげであり、涙がはらはらと流れ落ち
100 梨花一枝春帯雨
梨花(リカ)一枝(イッシ)春雨(はるあめ)を帯(お)ぶ
春の雨にぬれた一枝の梨の花のような風情であった