【宛轉(エンテン)たる蛾眉(ガビ)】と読みまして、美しい容姿を言い表す言葉。「宛転」は三日月の形をした美しい眉。「蛾眉」は蛾の触角のように細く長い眉。唐の美女の楊貴妃をたとえた言葉です。
出典は 白居易『長恨歌』です。
幸福の絶頂にあった玄宗皇帝と楊貴妃が、突如として奈落の底に突き落とされてしまいます。楊貴妃が悲劇的な死を迎える場面で【宛轉たる蛾眉】が表記されています。『長恨歌』は、7言×120句の詩です、下記は、33句から42句です。
九重城闕煙塵生,
九重(キュウチョウ)の城闕(ジョウケツ) 煙塵(エンジン) 生じ,
九重の城門から土煙をあげて
千乘萬騎西南行。
千乘(センジョウ) 萬騎(バンキ) 西南に行く。
千乗万騎が西南に向かう
翠華搖搖行復止,
翠華(スイカ) 搖搖(ヨウヨウ)として 行きて 復(ま)た止まる,
天子の御旗をひるがえし行っては止まり止まっては行き
西出都門百餘里。
西のかた 都門(トモン)を出づること 百餘里(ヒャクヨリ)。
都の門を西に行くこと百餘里
六軍不發無奈何,
六軍(リクグン) 發(ハッ)せず 奈何(いかん)ともする 無く。
兵士は動かず万事休して
宛轉蛾眉馬前死。
宛轉たる 蛾眉 馬前に死す。
傾国の美女 馬嵬(バカイ)に死す
花鈿委地無人收,
花鈿(カデン) 地に委(す)てられて 人の收(おさ)むる無し,
金の飾りが地に落ちても拾う者なく
翠翹金雀玉掻頭。
翠翹(スイギョウ) 金雀(キンジャク) 玉掻頭(ギョクソウトウ)。
美しい髪飾り 玉のかんざし (無惨に散らばっている)
君王掩面救不得,
君王(クンノウ) 面(おもて)を掩(おお)ひて 救ひ得ず,
天子は顔を覆うばかり 救うことができず
回看血涙相和流。
回(かえ)り看(み)れば 血涙(ケツルイ) 相(あい)和(まじ)りて流る。
振り返る皇帝の顏 血と涙ともに流れる