男女の仲をとりもつ人。仲人、媒酌人のことを言います。
【月下老人】略して【月下老】、【氷上人】略して【氷人】をあわせて【月下氷人】とした四字熟語です。
唐のころ、韋固(イコ)という青年がいました。あちこちと旅をしていまして、宋城(ソウジョウ)というところに来た時のことです。ある町角で、地べたにすわり、そばに置いた袋にもたれかかって、しきりに書物を調べている、ふしぎな老人に会いました。
韋固が、何をしているか尋ねると、
「いまな、この世の結婚の事をしらべているのだよ。」
「袋の中のものはなんですか」
「赤い紐だよ。これは夫婦をつなぐ紐じゃ。ひとたびこれでつなげばな、かならず結ばれるのじゃ。」
韋固はひとり者だったので、ためしに聞いてみました
「きみの奥さんかね。この宋城にいるよ。ほれ、この北で野菜を売っている陳(チン)という
おばあさんがいるだろう。いま抱いている赤ん坊が、きみの奥さんだよ」
まともに考える気にもなれず韋固はそのまま立ち去りました。
それから十数年のち、韋固は郡の太守の娘と結婚することになりました。新妻は十五で、若く美しく、韋固はしあわせでした。ある夜、韋固は妻に、身の上を聞いてみました。すると、妻は言いました。
「わたくし、じつは太守の養女なんです。実の父は、宋城で役人をしているときになくなりました。
そのとき、わたくしはまだ赤ん坊でした。でも、やさしい乳母がおりましてね、
野菜を売りながら、私を育ててくれたのです。陳ばあやのお店をよく想いだします。
あなた、宋城をごぞんじ。 あの町の、北のほうでした・・・・・」。
晉のころ、索耽(サクタン)という占いの名人がいました。
ある時、令狐策(レイコサク)という人が夢占いをたのみにきました。
「私は氷の上に立っていました。氷の下には、だれか人がいて、その人と話したのです。」
索耽は、
「氷の上は、すなわち陽、下は陰だ。陽と陰が語るというのは、きみが結婚の仲立ちをして、
それがうまく成立する前兆だな。成立する時期は氷が溶けたころだな」
やがて令狐策のところに、太守から、息子と、張氏の娘を結婚させたいという、仲人の話が来ました。その一組は、めでたく結ばれました。式をあげたのは春のなかば、氷はもうとけて、
春の川は音をたてて下っていました。
【月下老人】と【氷上人】のお話でした。