【卿(ケイ)を親しみ卿を愛す。】と読みまして、妻が夫を親愛していうことばです。また、夫婦がたがいに相愛することも言います。
【卿】は、第二人称の代名詞で、男女ともに用います。【あなた】。【あんた】。
【卿(あんた)が好きで、卿(あんた)を愛してるの。】
出典は『世説新語』惑溺(ワクデキ)です。
西晉の政治家で『竹林の七賢』の一人、王戎(字は安豊)と奥さんの会話です。
王安豐婦,常卿安豐。
王安豐の婦(つま)、常に安豐を卿とす。
王安豐の妻は、いつも夫に対して卿(あんた)と呼んでいました。
安豐曰、婦人卿婿、於禮為不敬、後勿復爾。
安豐曰く、婦人が婿を卿とするは、禮に於いて不敬となす、後復(ま)た爾(しか)る勿(な)かれ、と。
安豐が言いました、妻が夫を「卿」と呼ぶのは、礼儀として不謹慎だ、以後はやめなさい。
婦曰、親卿愛卿。是以卿卿。
婦曰く、卿に親しみ卿を愛す。是(これ)を以て卿を卿とす。
妻が答えました、卿(あんた)が好きで、卿(あんた)を愛するから、
それで卿(あんた)を卿(あんた)と呼ぶのです。
我不卿卿,誰當卿卿。
我卿を卿とせずんば、誰か當に卿を卿とす、と。
わたしが卿(あんた)を卿(あんた)と呼ばなければ、
誰か卿(あんた)を卿(あんた)と呼べばいいのですか。
遂恆聽之。
遂(つい)に恆(つね)に之を聽(ゆる)す。
かくて、いつもそう呼ぶことを許しました。