【騅(スイ)逝(ゆ)かず】と読みまして、気力が衰え、時勢も不利で、もはや為すべき方法がない状態に陥ったことをいいます。
出典は『史記』項羽本紀です。
秦末漢初、劉邦・項羽の楚漢戦争の終盤B.C.202年、垓下(ガイカ)の戦いで項羽が劉邦に追い込まれ、敗戦を悟った項羽は寵姫虞美人(グビジン)や将兵と別れの宴をしました。
於是項王乃非歌慷慨、
是に於いて項王、乃ち非歌慷慨す、
やがて項羽は非歌慷慨して、
自爲詩曰、
自ら詩を為(つく)りて曰く、
自ら詩を作って歌った、
力拔山兮氣蓋世、
力は山を抜き気は世を蓋ふ、
我が力は山を抜き、気は世を蓋う程である、
時不利兮騅不逝、
時に利なく騅逝かず、
時は我に利せず、騅も遂に進もうとしない、
騅不逝兮可奈何、
騅の逝かざる奈何すべき、
騅が進まないのはどうしたらいいんだ、
虞兮虞兮奈若何。
虞や虞、若じを奈何せん、と。
虞や虞や、お前をどうしよう。
歌數闋、美人和之。
歌ふこと数闋(スウケツ)、美人之に和す。
項羽は繰り返し歌い、虞美人は之に応じた。
項王泣數行下。
項王、泣数行下る。
項羽の泣が数行下った。
左右皆泣 莫能仰視。
左右皆な泣き、能く仰ぎ視る莫し。
左右の者もまた泣き、仰ぎ見ることが出来なかった。