【脣(くちびる)亡(ほろ)ぶれば、則ち歯(は)寒(さむ)し】と読みまして、
密接な関係にあるものの一方が滅びると片方も危うくなるということを言います。
出典は『史記』晉世家です。
晉の献公が虞(グ)に道を借りて虢(カク)を討とうとしました。虢君が承諾しようとしたので、
宮之奇(キュウシキ)が、
「道を貸してはなりません。虢を討ち滅ぼしたのち、きっとわが国を滅ぼそうとするでしょう。
虞之與虢、脣之與齒。
虞の虢に與(お)けるは、脣の齒に與(お)けるなり。
わが虞と虢とは、脣と齒の関係です。
脣亡則齒寒。
脣、亡ぶれば、則ち歯寒し。
脣がなくなれば、齒はむき出しになり直接危険にさらされます。
虞公不聽。
虞公、聽(き)かず。
虞の君は言うことを聞かず、
遂許晉。
遂に晉に許す。
晉に許可を与えてしまった。
宮之奇以其族去虞。
宮之奇、其の族を以て虞を去る。
宮之奇は、危険が我が身に及ぶことをおそれ、一族を引き連れて虞の国を去りました。
晉は虢を滅ぼすと、帰途、虞を襲って滅ぼしてしまいました。
「くちびる」を表す字は【脣】が正字です。
常用漢字の【唇】は「辰:ハマグリが足を出して動いている形」+「口:祝詞を入れる容れ物」から出来た字で、占いをする意味を表す字として作られたのですが、「音」の類似性から「くちびる」に使われるようになりました。辞典によっては「唇」は「脣」の俗字と説明しているものもあります。