【怒髮(ドハツ)上(のぼ)りて冠(かんむり)を衝(つ)く】と読みまして、
怒りのために髪の毛が逆立って冠を突き上げるほどである、という意味です。それほど怒りくるった様子を表しています。
『史記』廉頗(レンパ)・藺相如(リンショウジョ)列伝の故事に由来した話です。
戦国時代、B.C.283年、秦の昭王(ショウオウ)は趙の惠文王(ケイブンオウ)に対して、
和氏の璧(カシのヘキ)と十五城と交換したい、と申し入れました。
そこで、趙王は藺相如に璧を託して秦へ使はしました。
相如が璧を秦王に奉じると、秦王は大変喜び、侍女や近侍の者たちに回して見させました。
相如視秦王無意償趙城。乃前曰、
相如、秦王が趙に城を償うに意なきを視るや、乃ち前(すす)みて曰く、
相如は秦王に十五城を交換する気がないのを見て取り、前に進み出て言いました。
璧有瑕。請指示王。
璧に瑕あり。請う、王に指し示さん、と。
璧には傷がございます。大王にお教えしましょう。
王授璧。
王、璧を授く。
王は璧を相如に手渡しました。
相如因持璧、
相如、因(よ)りて璧を持ち、
相如はすかさず璧を持ち
卻立倚柱、
却立(キャクリツ)して柱に倚(よ)り、
後ずさりし、柱に寄りかかって立った、
怒髮上衝冠。
怒髪(ドハツ)上(のぼ)りて冠(かんむり)を衝(つ)く。
怒りのあまり髪は直立して、冠をも押しあげんばかり。
結局、相如は璧を傷つけることなく趙に持ち帰ることが出来ました。
「完璧」の語源にもなった出来ごとです。