【宅(タク)を徙(うつ)して其の妻を忘る】と読みまして、引っ越す際に妻を置き忘れてしまう、というあり得ないことをする意味で、物忘れの最たることを言った言葉です。
出典は『十八史略』唐・貞觀之治です。
魏徴曰、昔、魯哀公謂孔子曰、
魏徴(ギチョウ)曰く、昔、魯の哀公、孔子に謂ひて曰く、
魏徴がこう言いました、昔、魯の哀公が孔子に言いました、
人有好忘者、
人に好く忘るる者有り、
よく物忘れをする人がいて、
徙宅而忘其妻。
宅を徙して其の妻を忘る。
引っ越しの時に、その妻を連れて行くのを忘れたそうだ。
孔子曰、又有甚者。
孔子曰く、又甚だしき者有り。
これに対して孔子はこう言いました、いや、それよりもひどい人がいます。
桀紂乃忘其身。
桀紂は乃ち其の身を忘る。
あの夏の桀王、殷の紂王は、わが身を忘れて奢欲をほしいままにし、
国を滅ぼしてしまいました。
亦猶是也。」
亦た猶ほ是くのごときなり。
これもまた
(西域に住む異民族の商人や、賄賂を受けた役人、
贅沢におぼれて国を滅ぼした帝王などと)
同じようなものです。