【曲突(キョクトツ)を為(つく)り、速(すみ)やかに其の薪(たきぎ)を徙(うつ)せ】と読みまして、
災いを未然に防ぐ。火災を予防するために、かまどの火の煙突を外へ曲げそらせ、あたりにある薪を他に移すことを指摘した言葉です。たとえ話として用いられた言葉です。
出典は『十八史略』霍公伝です。
宣帝の四年。霍氏謀反、伏誅。夷其族。告者皆封列侯。
霍氏(カクシ)謀反し、誅に伏す。其の族を夷(たいら)ぐ。告(つ)ぐる者皆列侯(レッコウ)に封ぜらる。
霍光の一門が、謀反して誅せられ。三族が皆殺しにされました。
この謀反を告発した者は、皆諸侯に封ぜられました。
初霍氏奢縱。茂陵徐福上疏言、宣以時抑制、無使至亡。書三上。不聽。
初め霍氏、奢縦(シャショウ)なり。茂陵(モリョウ)の徐福(ジョフク)、上疏(ジョウソ)して言う、
宣しく時を以て抑制し、亡(ボウ)に至らしむること無かるべし、と。書三たび上(たてまつ)る。
聴(き)かず。
これより先、霍氏の一門が、奢り高ぶり我儘になっていたので、
茂陵(モリョウ)の徐福(ジョフク)が、書を奉って、今のうちに抑えつけ、滅亡に至らないように
なさるが宜しい。と言いました。三度も書を奉ったが、遂に聴かれなかった。
至是、人爲徐生上書曰、
是に至りて、人、徐生(ジョセイ)の為に上書(ジョウショ)して曰く、
霍氏の謀反が誅せられると、ある人が徐生(ジョセイ)の為に上書して言いました、
客有過主人。見其竈直突、傍有積薪、謂主人、更爲曲突、速徙其薪。
客に主人を過(よぎ)るもの有り。其の竈(かまど)の直突(チョクトツ)にして、傍らに積薪(セキシン)有るを
見て、主人に謂う、更(あらた)めて曲突(キョクトツ)を為り、速やかに其の薪を徙せ、と。
ここに一人の客があって、ある家の主人を訪ねたところ、其の竈の煙突がまっすぐで、
すぐ側に薪が積んであるのを見て、主人に言いました。新しく曲がった煙突をつくり、
薪をよそへ移しなさい。(そうしないと火事になりますよ。)
主人不應。俄失火。郷里共救之、幸而得息。殺牛置酒、謝其郷人。
主人応ぜず。俄かに火を失す。郷里、共に之を救い、幸いにして息(や)むを得たり。
牛を殺し酒を置いて、其の郷人に謝す。
主人は返事をしませんでした。案の定、間もなく火事になりました。村の人が協力して
消火に努め、幸い消し止めることが出来ました。そこで主人は(大いに喜び)牛を殺し、
酒を備えて、その村人に感謝しました。
人謂主人曰、郷使聽客之言、不費牛酒、終無火患。
人、主人に謂いて曰く、郷(さき)に客の言を聴かしめば、牛酒を費やさず終に火患(カカン)無からん。
ある人がその主人に向かって、先に客人の忠告を聞き入れていたら、牛や酒の費(つい)え
も必要なく、火事の心配もなかっであろうに。
今、論功而賞、曲突徙薪無恩澤、焦頭爛額爲上客邪。
今、功を論じて賞するに、曲突薪を徙せというものに恩沢(おんたく)無く、頭を焦がし額(ひたい)を
爛(ただ)らすものを上客と為すか、と。
ところで今、消火の功労者にはお礼をするのに、曲がった煙突をつくり、薪をよそへ
移しなさいと教えてくれた人には、何のお礼もなく、頭をこがし額を火傷した者を、
上席の客としてありがたがるのですか。
上乃賜福帛以爲郎。
上、乃ち福に帛(ハク)を賜(たま)い、以て郎と為す。
(この話を聞かされ、)宣帝は、(なるほどと悟って)徐福(ジョフク)に絹布を賜い、
【郎:御所に宿衞する官】という官位を授けられました。