【往事渺茫(オウジビョウボウ)、都(すべ)て夢に似たり】と読みまして、過ぎ去った昔のことは幽かでとりとめもなく、すべて夢のようである、という意味です。
【往事】は、昔のできごと、と言う意味です。【渺茫】は、はるかに遠い、と言う意味です。
元和14年(819年)3月11日、白居易は4年も別れていた親友元稹(ゲンシン)と、峡中(キョウチュウ)の地で偶然に出会いました。
お互いにそれぞれ赴任地へ向かう途中の出来事でした。懐かしさのあまり三日三晩語り明かしました。
その時の思いを
『十年三月三十日、微之(ビシ)に澧上(ホウジョウ)に別れ、十四年三月十一日夜、微之に峡中に遇(あ)ふ』と題して、7言×34句の詩を残しました。
【往事渺茫:オウジビョウボウ】は13句目にでてきます。
13)往事渺茫都似夢、
往事渺茫として都(すべ)て夢に似たり
さりし昔は果てしなく、すべては夢に似て
14)舊遊流落半歸泉、
舊遊流落して半(なか)ば泉(セン)に歸す、
旧友落ちぶれ、半ばは黄泉(よみ)に帰す
15)酔悲灑涙春盃裏、
酔ふこと悲しく涙を春盃(シュンパイ)の裏(うち)に灑(そそ)ぐ、
悲しく酒に酔い、零れる涙 盃の中、
16)吟苦支頤暁燭前
吟ずること苦しく 頤(おとがひ)を暁燭(ギョウショク)の前に支(ささ)ふ
詩を吟ずるも苦しくて、頬杖をつく燭の前。