【先ず隗(カイ)より始めよ】と読みます。
事を始めるには先ず言いだした者から実行せよというたとえ、と理解されがちですが少し違います。
春秋時代、燕の昭王(B.C.312B.C.279)の時のお話です。『十八史略』の記述を紹介します。
あるとき、昭王は郭隗(カクカイ)に向かって言いました、斉はわたしの国の混乱につけ込んで、
わが燕を破りました。わたしは燕が小国で、恨みに報いるのに力が足りないことをよくわかっています。
しかしなんとかして天下の賢者を得て、その者たちと国政をともにし、それによって先君の恥をすすぎたい。これがわたくしの願いです。
隗先生、立派な人を見立てて下さい。わたしはその人を師として、仕えたいと思います。
隗曰、古之君、有以千金使涓人求千里馬者。
隗曰く、古の君、千金を以て涓人(ケンジン)をして千里の馬を求めしむる者有り。
昔の君主のお話ですが、御家来に千金もの大金を持たせ、一日に千里も走るという名馬を
買いにやらせました。
買死馬骨五百金而返。君怒。
死馬の骨を五百金に買いて返る。君怒る
御家来は、死んだ名馬の骨を五百金で買って帰りました。その君主は怒りました。
涓人曰、死馬且買之。況生者乎。馬今至矣。
涓人曰く、死馬すら且(か)つ之を買う。況んや生ける者をや。馬、今に至ん、と。
御家来はこのように言いました。死んだ馬でさえ五百金もの大金で買うのです、
まして生きた名馬なら、どんな大金で買うのだろうと世の人は思います。
そのうちに生きた名馬がきっとやってきますよ
不期年、千里馬至者三。
期年(キネン)ならずして、千里の馬至る者三あり。
はたして一年もしないうちに、名馬が三頭も集まったということです。
今、王必欲致士、【先從隗始】。
今、王必ず士を致さんと欲せば、【先ず隗より始めよ】
もし王様が優れた人材を燕に招こうと思われるならば、【まず私、隗から優遇して下さい】
況賢於隗者、豈遠千里哉。
況んや隗より賢なる者、豈に千里を遠しとせんや、と。
まして、私より賢い者は、なんで千里の道が遠いからといって、燕に来ないことがありましょうか。
きっと先方からやって来るにちがいありません。
於是昭王爲隗改築宮、師事之。
是に於いて昭王、隗の為に改めて宮を築き、之に師事す
昭王はなるほどと思って、郭隗のために、住まいを改築し、彼に師として仕えました。
於是士爭趨燕。
是に於いて士争いて燕に趨(おもむ)く
こうして、天下の賢者は争って燕に向かいました。