腸が断ち切れるばかりの、激しい悲しみや苦しみを表す言葉です。
出典は『世説新語』黜免(チュツメン)です。
『世説新語』は南朝宋の劉義慶(リュウギケイ)の著で、後漢から東晋までの貴族や文人達の逸話を集めた書籍です。徳行・言語・政事等の36篇から成り立っていまして、当時の時代風潮を物語る話が多く取り入れられています。
【断腸の思い】は『世説新語』の黜免(チュツメン:官職をやめさせてしりぞけること)第二十八に出ています。
桓公入蜀、至三峽中。
桓公(カンコウ)蜀(ショク)に入いり、三峡(サンキョウ)の中に至(いた)る。
東晋の桓温(カンオン)が蜀に攻め入り、三峡までやって来ました。
部伍中有得猿子者。
部伍(ブゴ)の中に猿子(エンシ)を得る者有り。
部隊の中に子猿を捕まえた者がいました。
其母縁岸哀號、行百餘里不去。
其の母、岸に縁(よ)りて哀号(アイゴウ)し、行くこと百余里にして去(さ)らず。
その母猿が岸を伝いながら悲しげに叫び、百里あまり行っても、まだ追いかけてきました。
遂跳上船、至便即絶。
遂に跳(おど)りて船に上り、至れば便即(すなわ)ち絶(た)ゆ。
とうとう船に跳びこんでくると、そのまま息が絶えてしまいました。
破視其腹中、腸皆寸寸斷。
破(やぶ)りて其の腹(はら)の中を視みれば、腸(はらわた)皆(みな)寸寸(スンスン)に
断(た)えたり。
その腹を裂いて見ると、腸(はらわた)がずたずたにちぎれていたそうです。
公聞之怒、命黜其人。
公、之れを聞きて怒り、命じて其の人を黜(しりぞ)けしむ。
桓温は、これを聞くと怒って、子猿を捕らえた者を罷免してしまいました。