【多錢(タセン)、善(よ)く賈(こ)す】と訓読みされまして、資材や条件が整っていれば成功しやすいということを表した四字熟語です。
『韓非子』の五蠧(ゴト:五匹のきくい虫と言う意味です)篇に出てきます。
五蠧と言いますのは、国家という木を蝕(むしば)み、弱体化させる害虫として韓非子が定義した五種類の人間のことです。
1)学者 役に立たない理論で君主をまどわす
2)雄弁家 口先だけの外交で国家の利益を損なう
3)やくざ者 法を無視してその価値を下げる
4)権力者の側近 地位を悪用し賄賂で私財を貯め込む
5)商工従事者 自らでは生産せず、農民から搾取している
その内の 2)雄弁家が
外に事とせば、大、もって王たるべく、小、もって安かるべし。
外交に努めるならば、うまくいくと天下に王たることが出来、うまくいかなくとも、
国内を安定にすることが出来る。
と諸国の君主に、「外交に努めよ」と説き歩いてるいることに対して
韓非子は【長袖善舞:チョウシュウゼンブ】、【多銭善賈】の四字熟語をたとえに用い、まず国の経済を発展させて財力を蓄え、その上で外交の計画をたてるべきと主張しました。
鄙諺曰、 鄙諺(ひげん)に曰く、
ことわざに言う
長袖善舞、多錢善賈。 長袖(ちょうしゅう)よく舞い、多銭(たせん)よく賈(か)う
袖が長ければ舞いのふりがよく、お金が多ければ、沢山買える、
此言多資之易爲工也。 これ、多資の工をなし易(やす)きを言うなり。
これは、資本が多ければ、仕事がしやすいことを言ったのである。
故治強易爲謀、 故に、治強は謀をなし易(やす)く、
だから、国が治まり強くなれば外交の計画がしやすい
弱亂難爲計。 弱乱は計をなし難(がた)し。
乱れていて弱ければ計画どころではない
2300年ほど前の韓非子も、「経済発展」がまず第一と言っていたようです。