【意気揚揚(イキヨウヨウ)として、甚(はなは)だ自得(ジトク)するなり。】と読みまして、大いに満足して得意なさまを表します。
春秋時代、斉の宰相晏嬰(アンエイ)の御者が、主人の馬車を御するに当たって意気揚揚、得意満面であった故事に基づくお話です
出典は『史記』晏嬰伝です。
晏子爲齋相。出。
晏子(アンシ)斉の相(ショウ)たり。出(い)づ。
斉の宰相の晏子が外出の際
其御之妻、從門閒而闚其夫。
其の御(ギョ)の妻、門間(モンカン)よりして其の夫を闚(うかが)う。
御者の妻が、門の隙間からうかがったところ
其夫爲相御、擁大葢、策駟馬、
其の夫、相の御と為(な)り、大蓋(タイガイ)を擁(ヨウ)し、駟馬(シバ)に策(むちう)ち、
夫は、宰相の御者として大きな蓋がさ)をかかえ、四頭の馬に鞭打ち、
意氣揚揚、甚自得也。
意気揚揚として、甚(はなは)だ自得(ジトク)するなり。
意気揚揚として、いかにも得意げであった。
既而歸。其妻請去。
既(すで)にして帰る。其の妻、去らんことを請う。
やがて夫が帰宅すると、妻は離縁を申し出た。
夫問其故。
夫、其の故(ゆえ)を問う。
わけを問うと
妻曰、晏子長不滿六尺。
妻、曰く、晏子は長六尺に満(みた)ず。
妻は言いました、晏子は身の丈六尺にも足りないが、
身相齋國、名顯諸侯。
身、斉国の相として、名、諸侯に顕(あらわ)る。
その身は、斉国の宰相として諸侯に名高く、
今者妾觀其出、志念深矣。
今者(いま)、妾(ショウ)其の出づるを観るに、志念(シネン)深し。
しかも先刻わたしが外出の様子を拝見すると、思慮深げで
常有以自下者。
常に自ら以て下(ひく)くすること有り。
いつも人に謙遜しているように見受けられた。
今子長八尺、乃爲人僕御。
今いま、子長八尺、乃ち人の僕御(ぼくぎょ)たり。
しかるにあなたは、丈が八尺もありながら、人の御者となり、
然子之意自以爲足。
然に子の意自(みずか)ら以て足れりと為す。
いかにも満足そうにしておられる。
妾是以求去也。
妾、是を以て去らんことを求むるなり、と。
わたしが去らしていただきたいというのは、このためです。
其後夫自抑損。
其の後ち、夫自ら抑損(ヨクソン)す。
それ以来、御者は自分を抑えて謙遜になった。
晏子怪而問之。
晏子、怪しみて之を問う。
晏子が不思議に思って問うと
御以實對。
御、実を以て対(こた)う。
ありのままを答えたので、
晏子薦以爲大夫。
晏子、薦めて以て大夫と為す。
晏子は感じ入り、彼を推薦して大夫とした。