【櫝(トク)を買いて珠を還(かえ)す】と読みまして、きれいな箱だけを買って、中の珠玉を返すことから、
外見の立派さにとらわれて、眞の価値を見失ってしまうことの戒めの言葉です。
出典は『韓非子』外儲説・左上です。
楚人有売其珠於鄭者。
楚人、その珠を鄭(テイ)に売る者あり。
楚の人で鄭の国に行って真珠を売ろうとしたものがありました。
為木蘭之櫃、
木蘭(モクラン)の櫃(ひつ)を為(つく)り、
立派な木蘭(モクラン)の箱を作り、
薫以桂椒、
薫(クン)ずるに桂椒(ケイショウ)をもってし、
それを香木の桂や椒でたきしめ、
綴以珠玉、
綴(つづ)るに珠玉をもってし、
珠玉をつないでちりばめ、
飾以玟瑰、
飾るに玫瑰(マイカイ)をもってし、
赤い宝石で飾りつけ、
輯以翡翠。
輯(あつ)むるに翡翠(ヒスイ)をもってす。
かわせみの美しい羽根を集めてその中に真珠を入れました。
鄭人買其櫝、而還其珠。
鄭人、その櫝(ひつ)を買いてその珠を還(かえ)す。
鄭の人はその箱だけを買って、真珠の方は返してきました。
此可謂善売櫝矣、
此れ善く櫝を売ると謂うべきも、
これでは、うまく箱を売ったとは言えますが、
未可謂善鬻珠也。
いまだ善く珠を鬻(ひさ)ぐと謂うべからず。
うまく真珠を売ったとは言えないでしょう。