【杞憂(キユウ)】と読みまして、無用の心配をすること、また取り越し苦労をすることを表すことばです。
出典は『列子』天瑞(テンズイ)篇です。
杞國有人憂天地崩墜、身亡所寄、廢寢食者。
杞国に人の天地崩墜(テンチホウツイ)して、身の寄する所亡きを憂え、寝食を廃する者有り。
杞の国に、ある人で、天地が崩れ落ちて、身のおきどころがなくなるのを心配して、
落ちついて生活を続けることが出来ないでいる者がいました。
又有憂彼之所憂者。
又彼の憂うる所あるを憂うる者有り。
彼が心配ごとをしているのを心配する者がいた。
因往曉之曰、
因(よ)りて往きて之を暁(さと)して曰く、
そこで出かけて行って、言いきかせました、
天積氣耳。亡處亡氣。
天は積気(セッキ)のみ。処(ところ)として気亡きは亡し。
天は大気の集まりだけなんだ。どんな所にも大気のない所なんてありゃしないよ。
若屈伸呼吸、終日在天中行止。
屈伸呼吸(クッシンコキュウ)のごときは、終日(シュウジツ)天中に在りて行止するなり。
からだの屈げ伸ばしは、いつも天の中でやっているんだから、
奈何憂崩墜乎。
奈何(いかん)ぞ崩墜(ホウツイ)を憂えんや、と。
どうして天が崩れ落ちるなんて心配するんだね。