【足を躡(ふ)み耳に附(つ)く】と読みまして、他人にさとられないように、そっと相手に教えることを言います。そのために、相手の足をふみ、耳をつけてそっと言うのです。
出典は『史記』淮陰侯伝です。
漢の四年(B.C.203年)
齊を平定した韓信が、人をやって漢王(劉邦)に言上させました。
齊は信用ならない國です。假の王を立てて鎮撫しなければ、形勢は安定しません。
どうか、私韓信を、假の王にしてください。なにかと好都合だと思います。
漢王大怒罵曰
漢王、大いに怒り罵(ののし)りて曰く
漢王は激怒して、韓信の使者に怒鳴りつけました、
吾困於此、旦暮望若來佐我、
吾、此(ここ)に困しみ、旦暮、若(なんじ)の來たりて我を佐(たす)けんことを望むに、
わしは、ここで苦しい目にあい、朝夕、お前がやってきて、
わしを助けてくれることを望んでいるのに、
乃欲自立爲王。
乃(すなは)ち自ら立ちて王たらんと欲す。
勝手に王に立とうとしている。
張良陳平、躡漢王足,因附耳語曰
張良・陳平、漢王の足を躡み、,因りて耳に附きて語(つ)げて曰く
張良と陳平が漢王の足を躡みつけ、ついでに耳に口をよせてささやいた。
漢方不利、寧能禁信之王乎。
漢、方(まさ)に不利あらず、寧(なん)ぞ能(よ)く信の王たるを禁ぜんや。
漢はいま不利です。韓信が王になるのを止める力はありません。
不如因而立、善遇之、使自爲守。
因りて立てて、善く之を遇し、使自ら爲に守らしむるに如(し)かず。
この機会に、王に立てて優遇し、自分から進んで齊を守らせるにかぎります。
不然、變生。
然(しか)らずんば、変(ヘン)生(ショウ)ぜん。
そうしなければ、とんでもないことが起きかねません。