後の大きな利益や喜びより、たとえ小さくても、今手に入る小さな利益や喜びのほうがよいということを表している故事成語です。
出典は「世説新語」の任誕(ジンタン)篇です。
任誕篇には、世俗にこだわらないで、気ままに生きた人々の逸話が集められています。酒と人間の物語が多く収められています。
【即時一杯】はその中の一つのお話です。
張季鷹縱任不拘。
張季鷹(チョウキヨウ)縱任(ショウニン:気まま)にして拘(かかは)らず。
張季鷹(張翰:チョウカン)は気ままに振る舞い、何物にもとらわれなかった。
時人號為江東歩兵。
時人(ジジン)号して江東の歩兵と為す。
当時の人々は彼を、江東の歩兵(阮籍:ゲンセキ)と呼んだ。
或謂之曰、
或ひと之に謂ひて曰く、
或る人が彼に言いました
卿乃可縱適一時、獨不為身後名邪。
卿は乃ち一時に縱適(ショウテキ)す可(べ)きも、身後の名を為さざらんや、と。
あなたは今の世を気ままに暮らしていて結構だが、死後の名声を思ったことはないのかね。
答曰、
答へて曰く、
張が答えて言いました
使我有身後名、不如即時一盃酒。
我をして身後の名有らしむるは、即時一盃の酒に如かず、と。
死後に名声が残るよりは、たった今一盃の酒の方がいい。
当時の人々は、彼の生き方をうらやましく思い、むしろ尊敬すらしたそうです。