【人生意氣に感ず、功名(コウミョウ)誰か復(ま)た論ぜん】と読みまして、
人は、意気にこそ感ずるものであって、手柄を立て、名を揚げようなどということは、誰も問題にしないのだ、という意味です。
出典は『唐詩選』魏徴(ギチョウ)述懷詩です。
唐の高祖・李淵の厚い知遇と信頼を得た魏徴が、身命を賭して恩顧に報いようとする決意を表した、5言20句の詩です。その中の最後の2句【人生意氣に感ず、功名誰か復た論ぜん】が有名になりました。
No.2624【人生意気に感ず】、No.2907【人生意氣に感ず、功名誰か復た論ぜん】で、記載させてもらっていますが、原文が欠けていましたので、20句全文を記載させていただきました。口語訳は私の意訳です。
1) 中原還逐鹿、
中原還(ま)た鹿を逐(お)ひ、
國にまた戦が起き、
2) 投筆事戎軒。
筆を投じて戎軒(ジュウケン)を事とす。
仕事を辞めて、参戦す。
3) 縱橫計不就,
縱橫の計 就(な)らざるも、
作戦計画、採用されずとも、
4) 慷慨志猶存。
慷慨の志 猶(な)ほ存す。
理想の気持ちは、まだ残り。
5) 杖策謁天子,
策(むち)を杖(つ)きて天子に謁(ヱツ)し、
ムチを手に持ち、天子に拝謁し、
6) 驅馬出關門。
馬を驅(か)りて關門(カンモン)を出(い)づ。
軍馬に乗って、出(いづる)は函谷関。
7) 請纓繋南越,
纓(エイ)を請(こ)ひて 南越を繋ぎ,
冠の紐で、南越王をしばりあげ、
8) 憑軾下東藩。
軾(ショク)に憑(よ)りて 東藩を下(くだ)さん。
戦によらず、東方を下したい。
9) 鬱紆陟高岫,
鬱紆(ウツウ)として 高岫(コウシウ)に陟(のぼ)り,
曲がりくねった、高い道を登り詰め。
10) 出沒望平原。
出沒して 平原を望む。
ゆるく波打つ平原を望みつつ。
11) 古木鳴寒鳥,
古木に寒鳥鳴き,
古木に冬鳥、淋しげに、
12) 空山啼夜猿。
空山 夜猿 啼く。
人け無き山、猿が啼き
13) 既傷千里目,
既に 千里の目を 傷ましめ,
彼方を見るに、目も虚ろ、
14) 還驚九折魂。
還(ま)た 九折の魂を驚かす。
故郷を思って、さまよう魂。
15) 豈不憚艱險,
豈(あ)に 艱險を 憚(はばか)らざらんや,
険しい旅路を厭わぬはずはない、
16) 深懷國士恩。
深く國士の恩を 懷(おも)ふ。
国士の待遇有難く
17) 季布無二諾,
季布(キフ)に二諾 無く,
季布に二諾 無く,
18) 侯嬴重一言。
侯嬴(こうえい)は 一言を重んず。
侯嬴は、一言を重んず。
19) 人生感意氣,
人生、意氣に感ず,
人生意気に感ず
20) 功名誰復論。
功名、誰(たれ)か復(ま)た論ぜん。
功名など誰が問題にする者か。