すばしこいうさぎは三つの隠れ穴をもって危険から身を守ると言う意味から、身の安全を保つために、いくつかの避難場所や策を用意するたとえを表す四字熟語です。
【狡兎】は、すばしこい兎のことです。
【三窟】は、三つの窟(あなぐら)のことです。
出典は『戦国策』齊巻です。
今から約2300年前、中国の戦国時代、斉(セイ)国の宰相・孟嘗君(モウショウクン)と参謀・馮諼(フウケン)とのお話です。『史記』孟嘗君列伝にも同様の話が記載されていますが、『史記』では馮驩(フウカン)となっています。
ある日馮諼が孟嘗君に向かって
「すばしこい兎でさえ【三つの窟(=穴)】があって、やっとその死を免れることが出来るのです。
今、君(きみ)には【窟】が一つしかなく、枕を高くしてお休みになることは出来ません。
君のために【窟】をもう二つ掘ってまいりましょう。」
孟嘗君が持っているただ一つの【窟】というのは、彼が領主をしている「薛(セツ:地名)」を指しています。
孟嘗君は宰相をしていたのですが、閔(ビン)王が孟嘗君を煙たがり、宰相の職を解任してしまいました。それで薛に帰っていたのですが、解任と同時に多くの食客もまた、孟嘗君の下を離れてしまいました。
馮諼(ふうけん)が用意する、二つ目の【窟】というのは、宰相への復職でした。
孟嘗君を迎え入れた国は豊かになり兵を強くすることができるでしょう。といって隣国『魏』に
働きかけます。
一方、齊の閔王には『魏』が孟嘗君を宰相に迎え入れようとして、使者をこちらに向けたそうです。
孟嘗君が魏の宰相になったら『齊』は大変なことになります。
策を弄した結果、孟嘗君は齊の宰相に復帰しました。
三つ目の「窟」は、自領地の「薛」に先王の宗廟を建てることです。
宗廟が彼の領地にある限り、斉王は孟嘗君に手を出せないからです。
以上の【三窟】により、孟嘗君の安泰は約束されることになりました。彼は数十年もの間、
宰相の地位にあり続けました。
戦国策の記述は
三窟已(すで)に就(な)る。君 姑(しばら)く枕を高(たこ)うして樂(たのしみ)を爲(な)せ。
孟嘗君、相(ショウ)爲(た)ること数十年、
纖介(センカイ:ちりほど)の禍(わざわ)ひ無きは、馮諼の計(はかりごと)なり。
と結んでいます。