【老牛 犢(トク)を舐(な)む】と読みまして、親牛が子牛を舐めて愛する様子を言います。そこから、親がわが子を深く愛し、かわいがることのたとえに使われます。
出典は『後漢書』楊彪(ヨウヒョウ)傳です。
【犢】は、子牛です。難読語で「犢鼻褌:トクビコン」があります。「ふんどし」と訓読みされます。「褌:コン」一字でも「ふんどし」ですが、「犢鼻褌」のほうがよりリアルです。
後漢の楊彪の子、楊脩(ヨウシュウ)は魏の曹操に重く用いられていましたが、のちに
曹操に殺されてしまいました。
操見彪問曰、
操彪を見て問ひて曰く、
曹操が楊彪に会って、
公何痩之甚。
公何ぞ痩(や)すること之れ甚(はなは)だし。
あなたは随分痩せましたね、というと、
對曰
対へて曰く、
(楊彪が)言うには、
愧無日磾先見之明、
愧(は)づらくは日磾(ジッテイ)が先見の明無くして、
お恥ずかしいことに、(私には前漢の)金日磾(自分の双子が武帝のために
ならないことを予見して、わが子を殺した)の先見の明もなくて、
猶懐老牛舐犢之愛。
猶ほ老牛舐犢の愛を懐くを。
年老いた牛が子牛をなめ可愛がるような溺愛の情だけしかありませんでした。
操爲之改容。
操 之が為に容を改む。
これを聞いて、曹操は思わず態度を改めた。