虎や狼のように残忍で貪欲な心をいいます。
戦国時代、B.C.237年、大梁(タイリョウ)の尉綾(ウツリョウ)が秦王の下で、諸侯討滅の策を説いた後、
秦王(後の始皇帝)の性格を評して言った言葉です。
出典は『秦始皇本紀』です。
秦王為人、蜂準、長目、摯鳥膺、豺声、少恩而虎狼心
秦王の人と為り、蜂準(ホウセツ)、長目、摯鳥(シチョウ)の膺(オウ)、豺の声、恩少なくして虎狼
の心あり。
秦王の人となりは、鼻は高くて蜂のような恰好、切れ長の目、猛禽のように突き出た胸、
豺(サイ)のような声で恩愛はすくなくて【虎狼のような心】だ。
居約易出人下、得志亦軽食人。
約に居るときは、人の下に出で易く、志を得しときは、亦た人を軽食せん。
困窮しているときには平気で人の風下にに立つが、志を得れば人を軽蔑して
残酷にあつかうだろう。
我布衣、然見我常身自下我。
我は布衣なり、然るに我を見るに、常に身は自ら我に下る。
わたし(尉綾)は、無位無官の者にすぎないが、その私にあうのに、常にわれとわが身を、
私の下に置いている。
誠使秦王得志於天下、天下皆為虜矣。不可与久遊。
誠に秦王をして志を天下に得しめば、天下皆虜と為らん。與に久しく游ぶ可からず。
誠に秦王が天下をとることにでもなれば、天下の人々は皆その虜になってしまうだろう。
久しく交際することのできない人物だ。
乃亡去。
乃ち亡げ去る。
尉綾はそう言って逃げ去ろうとしたが
秦王覚、固止、以為秦国尉。
秦王、覚り、固く止め、以て秦国の尉(大将軍に相当する官)と為す。
秦王はそれを悟り、強く引き止め、秦の国尉とした。
卒用其計策。而李斯用事。
卒に其の計策を用い、李斯、事に(政事に)用う。
ついにその計略を用い、李斯にそれを用いさせた。