絶世の美女のたとえです。その美しさの故で、人心を惑わすことになり、国や城を傾け滅ぼすことを表します。
出典は『漢書』外戚:孝武李夫人伝です。
前漢の武帝(B.C.140~B.C.88)の時代。李延年(リエンネン)という宮廷楽士が、妹を推薦するために歌った詩に基づく言葉です。
あるとき、李延年は武帝の前で次のような歌をうたいました。
北方有佳人、絶世而独立。
北方に佳人有り、絶世にして独り立ち、
北の方に美しい人がいます。この世に類(たぐい)なく孤高とした美しさです。
一顧傾人城、
一たび顧(かえり)みれば人の城を傾け、
一たび振り向くと、我を忘れて熱中し、ためにお城は滅びそうになり、
再顧傾人國。
再び顧みれば人の国を傾く。
再び振り向くと、国が滅びそうになるほどです。
寧不知傾城与傾國、
いずくんぞ傾城と傾国を知らざらんや。
熱中して都市や国を危うくなることは、よくわかってはいるのですが、
佳人難再得。
佳人再びは得難し。
このような美人は二度と手に入らないので、思わず熱中してしまうのです。
武帝はこれを聞くとため息をついて、
『いいなあ、この世に本当にそのような美人がいるのか』といいました。
すると、武帝の姉の平陽公主が、『李延年の妹のことよ』と教えました。
武帝がさっそく召しだして見ると、まさしく絶世の美女で、舞も見事であった。こうして彼女は武帝に寵愛されるようになりました。
春秋時代、呉王夫差は西施の色香に惑わされて「呉」を傾けてしまいました。
唐の玄宗皇帝は楊貴妃を寵愛して、国政を疎かにして「安禄山の乱」を招いてしまいました。