人の運命は天が定めるものであり、人間にはどうしようもない、という意味で漢の高祖が流れ矢に当たって負傷したとき、治療に来た医者に言った言葉の中に出ていました。
出典は『史記』高祖本紀です。
高祖は黥布を攻撃したとき、流れ矢にあたった。
その傷が道中で悪化して、病状が重くなった。
呂后が腕利きの医者を迎えた。
医者が奥へ入って診察した。
高祖が医者に尋ねた。医者が言いました。
「御病気は直せます。」
すると高祖は医者を罵倒した。
吾以布衣提三尺劍
吾は布衣を以て三尺の劍を提(ひっさ)げ、
わしは庶民の身でありながら、三尺の剣をさげて
取天下。
天下を取る。
天下を取った。
此非天命乎。
此れ天命に非ずや。
これは、天の使命というものじゃないか。
命乃在天。
命は乃ち天に在り。
運命は天にまかせてある。
雖扁鵲何益。
扁鵲と雖も、何ぞ益あらん。
たとえ扁鵲(ヘンジャク:中国古代の名医)だって役には立たん。
そのまま病気の手当をさせず、黄金五十斤を下賜して、退出させた。