水が漏れる甕で、焦げている釜に水をそそぎ入れる、ということから、一刻を争う譬えです。
危急を救うに少しも猶予がないということです。出典は『史記』田敬仲完世家第十六です。
戦国時代、齊の王建の六年(前260年)秦が趙を攻めました。
趙は食糧が不足したので齊に援助を求めましたが、齊はこれを断りました。
その折、斉王の謀臣・周子が言った言葉に、【漏甕を奉じて焦釜に沃ぐ】がありました。
且趙之於齊楚扞蔽也。
且つ趙の齊楚に於けるや扞蔽(カンペイ)なり。
且つまた、趙は斉楚をおおい防ぐような関係にあり
猶齒之有脣也。
猶、齒の脣あるがごとき。
ちょうど歯に対する唇のようなものであります。
脣亡則齒寒。
脣亡べば則ち齒寒し。
脣がなくなれば歯が寒い。
今日亡趙、明日患及齊楚。
今日、趙を亡ぼさば、明日患ひ齊楚に及ばん。
そのように、秦が、今日趙を滅ぼせば、明日は、その心配は斉楚に及ぶことでしょう。
且救趙之務、
且つ趙を救ふの務めは、
そのうえ、趙を救援するという任務は、
宜若奉漏甕沃焦釜也
宜しく漏甕を奉じて焦釜に沃ぐが若くなるべき。
水の漏れる甕で、焦げている釜に水をそそぎ入れるように大急ぎで行うべきです。