人はそれぞれ、自分の分に安んじて満足するのが良い、と言う譬(たと)えを言った四字熟語です。
『荘子』逍遥遊(ショウヨウユウ)篇に、【河に飲むも、満腹に過ぎず】として出ています。
伝説の帝王堯(ギョウ)が、これまた伝説の賢者許由(キョユウ)に天子の位を譲りたいと申し出ました。
すると許由は
太陽が昇ったのに、篝火(かがりび)を消さないでいるのはもったいないことです。
慈雨が大地を潤(うるお)しているのに、水を注ぐのは役に立たないことです。
それと同様に、あなたで、天下は立派に治まっているのに、私があなたに代われば、人は名誉が欲しくて天子になったというでしょう。そんなのは、ゴメンです。
これに続けて
鷦鷯巢於深林、不過一枝。
鷦鷯(ショウリョウ:みそさざい)深林に巣(すく)うも、一枝に過ぎず。
みそさざいは森林に巣を作るにしても、ただ一枝で充分です。
偃鼠飲河、不過満腹。
【偃鼠(エンソ:どぶねずみ)河に飲むも、満腹に過ぎず】。
どぶねずみは川の水を飲むといっても、すぐ腹いっぱいになります。
私は今の生活に満足しています、これ以上望むものもありませんし、天下を治めようなどという気はさらさらありません。
帰休乎君、予無所用天下。
帰休せよ君。予(われ)天下を用(もっ)て為(な)す所無し。
どうかお引き取り下さい。私には天下は無用です。
さらに続けて
料理人の包丁捌(さば)きが下手だからといって、主人がまな板を踏み越えて調理場に入ることはありませんと、結んでいます。
最後の文章は、【越俎代庖:エッソダイホウ】、【越俎之罪:エッソのつみ】などの四字熟語になっています。