【中原に鹿を逐(お)う】と訓読みされます。群雄が帝位を得ようと争うことを表した四字熟語です。
【中原:チュウゲン】は、古代中国の中央部、すなわち黄河中流域の平原部をいいます。古来、文化の中心地であったことから天下に譬(たと)えられました。
【逐鹿:チクロク】は、猟師が鹿を追うのにたとえて、天子の位を得ようとして天下を争うことを言ってます。
隋の末期、天下は乱れ群雄が割拠しました。政治家魏徴(ギチョウ:580~643)もまた文筆を捨てて唐の高祖李淵(リエン)、太宗李世民(リセイミン)に従って、軍事に加わりました。
出征の命を受けて都を出発する時の感慨を詠ったのが、『唐詩選』の巻頭に置かれた「述懐:ジュッカイ」です。太宗李世民の厚い知遇と信頼を得た魏徴が、身を賭(と)して恩顧に報いようと、詠った五言古詩です。20行の長い詩ですが全文掲げました。 20行中、11行が何らかの故事を読み込んでいます。
1行目、漢の蒯通(カイトウ)の故事。 2行目、後漢・班超(ハンチョウ)の故事。
3行目、張儀・蘇秦の合従連衡策の故事。 5行目、後漢の鄧禹(トウウ)の故事
7行目、漢の終軍(シュウグン)の故事。 8行目、漢の酈食其(レキイキ)の故事。
13行目、楚辞の「招魂の歌」より。 14行目、楚辞九章・「抽思(チュウシ)」篇より。
16行目、戦国時代・晉の予讓(ヨジョウ)が知伯(チハク)に報いた「予讓呑炭」の故事
17行目、季布一諾の故事。 18行目、戦国・魏の侯嬴(コウエイ)の故事。
19行目 【人生 意気に感ず】 は、つとに有名な句です。
「述懐:懐(おも)ひを述ぶ」 私 訳
1 中原 還(ま)た鹿を逐い 群雄、天下を競う
2 筆を投じて戎軒(ジュウケン)を事とす 筆を捨て 行くは戦場
3 縦横の計は就(な)らざれども 合従連衡 叶わずとも
4 慷慨の志は猶お存せり 慷慨 いまだ心中にあり
5 策に仗(よ)りて天子に謁(まみ)え 杖つく故事で天子にまみえ
6 馬を駆(か)りて関門を出ず 馬を馳(は)せて 出るは函谷関
7 纓(えい)を請うて南粤(ナンオウ)を繋(つな)ぎ 纓を戴き 南越を捕(とら)う
8 軾(ショク)に憑りて 東藩(トウハン)を下さん 武力によらず 捕は東藩
9 鬱紆(ウツウ) 高岫(コウシュウ)に陟(のぼ)り 曲がれる道を頂上へ
10 出没 平原を望む 見え隠れに望む平原
11 古木に寒鳥鳴き 鳥は鳴き
12 空山に夜猿啼く 野猿も啼き
13 既に千里の目を傷ましめ 千里を見張るかし
14 還(ま)た九逝(キュウセイ)の魂をおどろかす 遠く故郷に 思いを致し
15 豈に艱険(カンケン)を憚(はばか)らざらんや この山道の険しさよ
16 深く国士の恩を懐う 国士の恩に 報いんと
17 季布に二諾(ニダク)無く 季布の二諾の譬えあり
18 侯嬴(コウエイ)は一言を重んず 侯嬴の一言 重しとし
19 人生 意気に感ず 人生 意気に感ず
20 功名 誰か復た論ぜん 功名 物ともせん
アメリカではオバマ大統領が再選され【逐鹿】を成しました。