一度に二つのことのできないこと、また一事に専心して他のことに気のまわらないことを言います。
前漢の司馬遷は、匈奴を征して敵に降った李陵を弁護して武帝に直言し、ために宮刑に処せられましたが、後に中書令に任ぜられました。その時、益州の刺史の任安(字は少卿)が書を送ってきたときの返書にある言葉です。
主上幸以先人之故。使得奏薄伎。
主上、幸いに先人の故を以て薄伎(ハクギ)を奏し、
天子は、幸いに父の功績に免じて、私の非才を許され、
出入周衛之中。
周衛の中に出入するを得しむ。
侍衛の一員に加えて下さいました。
僕以為載盆何以望天。
僕、以為(おも)へらく盆を戴(いただ)けば何を以て天を望まんと。
私は考えました、頭に盆を載せていては、どうして天を望み見ることができましょう。
故絶賓客之知。亡室家之業。
故に賓客(ヒンカク)の知を絶ち、室家(シッカ)の業を亡(わす)れ
そこで、賓客たちとの交遊をことわり、家業の一切をすてて、
日夜思竭其不肖之才力。
日夜、其の不肖の才力を竭くす思い、
日夜不肖の才を尽さんことを思い、
務一心営職。以求親媚於主上。
一心に務め、職を営み、以て親媚(シンビ)せられんことを主上に求む。
与えられた職務を一心に務め、天子の親愛を得ようとしておりました。