貴重な物を少しも傷つけずにもとの持ち主に返すこと、というのが本来の意味です。
璧(ヘキ)を完(まっと)うす、と訓読されます。『史記』廉頗(レンパ)・藺相如(リンショウジョ)傳を原典としています。No.2409【完璧帰趙】カンペキキチョウ http://fukushima-net.com/sites/meigen/2811
『十八史略』の『完璧』を記載します。
趙恵文王、嘗得楚和氏璧。
趙の恵文王、嘗(かつ)て楚の和氏の璧を得たり。
趙の恵文王が、楚の宝であった『和氏の璧』を手に入れました。
秦昭王、請以十五城易之。
秦の昭王、十五城を以つて之に易へんことを請ふ。
秦の昭王が、十五の城と和氏の璧を交換してくれと言ってきました。
欲不与畏秦強、欲与恐見欺。
与へざらんと欲すれば、秦の強きを畏れ、与へんと欲すれば、欺(あざむ)かるるを恐る。
秦にこの宝を与えないと言えば秦が怒って攻めてくるだろうと畏れ、
与えると言えば、欺かられることを恐れていました。
藺相如曰、願奉璧往。城不入則臣請、完璧而帰。
藺相如(リンシャウジョ) 曰く、願はくは、璧を奉じて往かん。
城入らずんば、則ち臣請ふ璧を完(まっと)うして帰らん。
すると藺相如が言いました、和氏の璧をもって秦に行きましょう。
城が手に入らなければ、和氏の璧を完全な状態で持ち帰ります。
既至。
既に至る。
すぐに、秦に向かいました。
王無意償城。
(秦)王、城を償(つぐな)ふに意無し。
秦の王には、城を与える意志はありませんでした。
相如乃紿取璧、怒髪指冠、却立柱下曰、
相如乃ち紿(あざむ)きて璧を取り、怒髪冠を指す。柱下に卻立(キャクリツ)して曰はく、
(秦の王に一度は献上した和氏の璧を、)藺相如はうまくだまして取り返し、
髪は怒りで逆立ち、冠を突き上げた。柱の下に立って言いました。
臣頭与璧倶砕。
臣が頭は璧と倶に砕けん、と。
(城をいただけないのであれば、)私の頭と一緒に、和氏の璧を粉々にします、と。
遣従者懐璧間行先帰、身待命於秦。
従者をして璧を懐(いだ)きて間行して先づ帰らしめ、身は命を秦に待つ。
(捕らえられた藺相如は、)従者の懐に和氏の璧を忍ばせて抜け道を通り先に返し、
自身は秦王の判断が下るのを待ちました。
秦昭王賢而帰之。
秦の昭王、賢として之を帰らしむ。
秦の照王は、賢い者だと言って、藺相如を趙の国に帰らせたということです。