牛の頭を店頭に懸けておきながら、実は馬肉を売るということで、看板に偽りあり、見せかけだけが立派で、実際がそれと一致していないことのたとえです。出典は『晏子春秋』雑下です。
春秋時代、斉の靈公(在位:前581~前554)のお話です
霊公、婦人にして丈人の飾りする者を好み、国人尽く之を服す。
靈公は、婦人が男装するのを好んだので、国民はみなこれをまねた。
公、吏をして之を禁ぜしめて曰く、女子にして男子の飾りする者は、其の衣を裂き其の帯を断たん。
靈公は、部下に、男装禁止令を出させました。男装する者は、衣を裂き、帯を切断する、と。
衣を裂き帯を断つも、相望みて止まず。
衣を裂き、帯を切断するも、一向に止まなかった。
そこで靈公は宰相の晏嬰(アンエイ)にその理由を尋ねました。
晏子對曰、
晏子対(こた)えて曰く、
晏子が答えました、
君使服之於内、而禁之於外。
君(きみ)之(これ)を内に服(フク)せしめて、之を外に禁ず。
王が宮廷では男装を好みながら、外に向かってはこれを禁じるというのは、
猶懸牛首于門而賣馬肉於内也。
猶(な)お牛首を門に懸けて馬肉を内に売るがごとし。
ちょうど牛の首を看板として門に懸けて、内では馬肉を売っているようなもの、
(表で言うことと内で行っていることが反対です)
公何以不使内勿服。
公何を以て内をして服すること勿からしめざる。
王は、どうして宮廷で男装をやめさせないのですか。
則外莫敢爲也。
則ち外敢えて為すこと莫からん、と。
(宮廷でやめさえすれば)外で進んでそのようなことはしないでしょう。
公曰、善。
公曰く、善し、と。
王は言いました、わかった。
使内勿服。
内をして服すること勿からしむ。
宮廷ではやめた。
踰月而國莫之服。
月を踰(こ)えて国に之を服すること莫(な)し。
翌月から、男装はなくなりました。