No.2946【陰徳有る者は、必ず陽報有り】に『淮南子』を出典とした説明を記載しました。
今回は、『説苑:ゼイエン』でのお話を紹介します。現代語訳のみです。
『冠の纓を失った男、楚の荘王に報いる』というお話です。抜き書きですが。
楚の荘王が、臣下を集めて酒をご馳走しました。
日が暮れて酒宴がたけなわの時に、燭が消えてしまった。
すると、美人の着物を引っ張る者があった。
美人は、その者の冠を取って纓(ひも)を切り、王に申し上げました。
「いま燭が消えてから、わたしの着物を引っ張る者がございました。
わたしはその者の冠の纓を切り取って、ここに持っております。
早く火を持って来て点けさせ、冠の纓の切れている者をさがしてください。」
すると、王は言いました。
「わたしはみんなに酒をご馳走して酔わせ、そのために無礼を働いたのだ。
女の節操のあるところを見せようとして、士に恥ずかしい思いをさせるのは宜し くない。」
そこで側近の者に、
「今日わたしといっしょに酒を飲む者は、愉快にやるためにみな冠の纓を切れ。」
と命令しました。
百余人の臣下がみな冠の纓を切り捨てると、ようやく火を点けさせた。
それから二年経って、晋と楚が戦うことがありました。
一人の臣下がいつも先頭に立っていて、五回戦闘を交えて五回とも首を手に入れました。
荘王は不審に思って、その者にたずねました。
「わたしは不徳のために、これまでおまえに注意をはらったことがなかった。
おまえはどうして尻込みもしないでこんなに死力をつくすことができるのか。」
すると、その者は答えた。
「わたしはすでに一度は死んだのです。以前に酔って無礼をはたらいた時に、
王は隠忍をしてくださったので、死刑にされるのをまぬがれたのです。
わが君への恩返しのために、いつかはきっと目ざましい働きをしたいと思っていたのです。
あの夜、冠の纓を切られたのが、このわたしなのです。」
隠れて施した恩恵にも、必ず目に見える報いがある。