将来の大きな目標を達成させるためには、目先の小さな屈辱には耐えなければならない、という意味です。
【韓信の股くぐり】は、『史記・淮陰侯(ワイインコウ)列伝』を出典としています。淮陰侯と言いますのは韓信のことです。
韓信は、軍師の張良(チョウリョウ)、丞相(ジョウショウ)の蕭何(ショウカ)と共に三傑と呼ばれていました。「百万の軍を連ね、戦えば必ず勝ち、攻めれば必ず城を取る、わしは韓信には及ばない」と劉邦に言わしめたほどの人物でした。
若い時、屠殺者仲間の一人が、韓信を侮(あなど)って言いました。
「お前は図体がでかくて、好んで刀剣を帯びているが、内心は臆病なだけだろう」
そして、衆人観衆の前で、韓信を辱めて言いました。
「韓信よ、出来るもんならそれで俺を刺してみろ。出来ないんなら俺の股の下をくぐれ」
於是信孰視、俛出胯俛下、蒲伏す。
是に於いて、信これを孰視(ジュクシ)し、俛(ふ)して胯下より出で、蒲伏(ホフク)す。
韓信はその若者をジッと見てから、【腹這いになって、その股の下をくぐりました】。
一市人皆笑信以爲怯
一市(イッシ)の人、皆信を笑い、以て怯(キョウ)なりと爲す。
町中の人は、韓信を臆病ものとして嘲りました。
後日、韓信は楚王となり、自分を侮辱したかっての若者を召し出して、中尉に任じて言いました、
「この男は壮士である。かって私を侮辱した時、彼を殺せなかったわけではない。
ただ彼を殺しても、名誉にならないから、耐え忍んで今日の成功があるのだ」