【怨みに報ゆるに徳を以ってす】と訓読みされます。
怨みのある者に対して、愛情を以て接し恩恵を与えることを表す四字熟語です。
中国古典、『老子』の63章に出ています。【報恩以徳】がでている前後を「読み下し文」と「口語訳」で記載します。
小を大とし、少を多とする。
小さいものを大きいものとして扱い、少ないものを多いものとして扱う。
怨みに報ゆるに徳を以(も)ってす。
怨みには徳でもって報いる。
難(かた)きをその易(やす)きに圖(はか)り、
難しいことは、それが易しいうちに手掛け、
大なるを其の細(ちい)さきに爲(な)す。
大きいことは、それが小さいうちに処理する。
天下の難事(なんじ)は必ず易きより作(おこ)る。
世の中の難しい事柄は必ず易しいことから起こる。
あることに立ち向かう時、その逆のことを想定して対処すると良い、と言うような意味だと思います。
ところが『論語:憲問第十四』では、孔子がある人に
【徳を以て怨みに報いるというのはどうでしょうか】と聞かれた時
【直(チョク)を以て怨みに報い、徳を以て徳に報いん】と答えています。
この「直」の解釈について、諸先生はいろいろ仰ってます
【怨みには怨みで】、【怨みには理性で】、【怨みには公正な態度で】、【怨みには真っ直ぐな正しさで】
【怨みには公平無私の判断を以て】等々です。
すくなくとも孔子は【怨みに対して徳で報いる】とは言っていません。
「直」という字は、「省+乚」の組み合わせによる会意文字で、『ひそかに調べて不正をただす』というのが原義だそうです。そこから「ただす、ただしい」の意味になり「まっすぐ、すなお」の意味にも用いられるようになりました。
案外、【怨みには怨みで】報いるのでもイイのかも知れませんね。
「今日の四字熟語」をまとめるため、『新釈漢文大系』明治書院刊を常に利用してます。その『論語』吉田賢抗編によりますと、
(老子、孔子の)人生観の相違であって、いま遽(にわか)にいずれを是とし、いずれを非とすることも出来ない。
となってました。