酒に酔ってとろんとした目付きになり、辺りの物がはっきり見えないさまを表す四字熟語です。
【酔(醉)】は、「酉(酒樽の象形)+卆(卒)」からできた形声文字です。意味は「おぼろ」です。
「酉」の部首にはお酒に関係する字が集められています。
余談ですが「酒」の部首は「氵」ではなく、「酉」です。
【眼】は、「目+艮」の形声文字です。
【酔眼】は、酒に酔った時の目つきです。陸游の詩の一節に
酔眼 本(もと)を軽んず、千古の事、釣竿(チョウカン)新たに賜う一灘(イチダ)の秋。
があります。
【朦】は、「月+蒙」の形声文字です。意味は「おぼろ」です。
【朧】は、「月+龍」の形声文字です。意味は「おぼろ」です。
【朦朧】は、ぼんやりした様子、物事のハッキリしないさまをいいます。
夏目漱石の作った「無題」という七言律詩の3句目、4句目の対句のところに
【朦朧】が使われています。この詩は対句の妙に特徴ありと讃えられています。
的皪(テキレキ:ハッキリし)たる梅花 濃淡の外
朦朧(モウロウ:ボンヤリし)たる月色 有無の中
「的皪」という畳韻(ジョウイン)の擬態語に、【朦朧】という畳韻の擬態語。
「濃淡」に対して「有無」、
「外」に対して「中」と言うようにです。
【酔眼朦朧】の四字熟語は、蘇軾(ソショク)の『杜介(トカイ)魚を送る』 という七言律詩の7句目に
出てきます。原文と読み下し文を掲げます。
『杜介送魚』 『杜介魚を送る』
1)新年已賜黃封酒。 新年已に賜う黃封酒(コウフウシュ:宮中醸造の酒。黄色い封がしてある)
2)舊友仍分赬尾魚。 旧友仍(な)を分つ赬尾(テイビ:尾の赤い)魚
3)陋巷關門負朝日。 陋巷(ロウコウ:狭く汚い町)関門(カンモン:門を閉ざす) 朝日を負い
4)小園除雪得春蔬。 小園除雪して春蔬(シュンソ)を得る
5)病妻起斫銀絲鱠。 病妻起って斫(き)る銀糸鱠(ギンシカイ:細く切ったなます)
6)稚子讙尋尺素書。 稚子讙(よろこ)び尋ねる尺素(セキソ:手紙)書
7)醉眼朦朧覓歸路。 【酔眼朦朧】 帰路を覓(もと)む
8)松江煙雨晚疏疏。 松江の煙雨 晩(おそく)に疎疎(ソソ:まばら)たり
お酒の美味しくなる季節です。「熱燗」の「燗」の字は「日」ではなく「月」です。
もともと「あいだ」を表す字は「月」を使った「閒」が正字です。
門の隙間からこもれ入る月の光。そんな隙間を表す字が「閒」です。
常用漢字の「間」、「簡」は「日」でOKですが、常用漢字以外は「月」にしなければ誤字となります。
「癲癇:テンカン」、「繧繝縁:ウンゲンべり」、「嫺:カン。みやびやか」みな「月」です。