来る年ごとに咲く花は同じようだが、それを眺める人々の姿はそのたびに変わる。
『唐詩選』にある、劉廷芝(リュウテイシ)の七言古詩「代悲白頭翁(白頭を悲しむ翁に代わる)」の11句、12句 です。全体で26句ありますが、前半の14句を掲載します。全て対句となっています。
この詩には伝説と言われているお話しがあります。
義父の宋之問(ソウシモン)が、「年年歳歳」の句に甚(いた)く感動し、自分にゆずってくれと頼んだのですが、劉廷芝はそれを断りました。後日、宋之問は劉廷芝を殺して自分の作としてしまいました、とか。
洛陽城東桃李花 洛陽城東 桃李の花、
洛陽の城東 桃や李(すもも)の花咲き乱れ、
飛來飛去落誰家 飛び来たり飛び去って誰が家にか落つ。
風の吹くまま飛び散って、どこの家に落ちるのか。
洛陽女兒惜顏色 洛陽の女児 顔色を惜しみ、
洛陽の乙女たち、容色のうつろいやすさを思い、
行逢落花長歎息 行々落花に逢うて長歎息す。
みちみち落花を眺め、深いため息をつく。
今年花落顏色改 今年 花落ちて顔色改まり、
今年、花が散って春が逝く、人の容色もしだいに衰える、
明年花開復誰在 明年 花開いて復(ま)た誰か在る。
来年花開く頃 誰がなお健在か。
已見松柏摧爲薪 已(すで)に見る 松柏の摧(くだ)かれて薪と為るを、
すでに見た、松や柏も薪となるを、
更聞桑田變成海 更に聞く 桑田の変じて海と成るを。
すでに聞く、桑畑もいつしか海に変わる。
古人無復洛城東 古人 洛城の東に復(かえ)る無く、
洛陽の東で、散る花を嘆じた人、二度と帰っては来ない、
今人還對落花風 今人 還(ま)た落花の風に対す。
今の人も、花を吹き散らす風に向かって嘆く。
年年歳歳花相似 年年歳歳 花相似たり、
来る年ごとに咲く花は変わらぬが、
歳歳年年人不同 歳歳年年 人同じからず。
来る年ごとに花見る人は変わりゆく。
寄言全盛紅顏子 言を寄す 全盛の紅顔の子(こ)、
今を盛りの紅顔の若者たち、
應憐半死白頭翁 応(まさ)に憐れむべし 半死の白頭翁。
どうか憐れと思っておくれ、半ば死にかけの白髪の翁を。