衣服を整えて、姿勢を正しくすることです。ここから転じて、心を引き締めてまじめな気持ちで物事に対処することを言います。
出典は二つあります。一つは『史記』の日者伝です。「日者」とは、易者のことです。
宋忠(ソウチュウ)と賈誼(カギ)、二人のインテリが、司馬季主(シバキシュ)という易者を訪れた時の問答が記載されています。
宋忠賈誼、瞿然而悟
宋忠・賈誼、瞿然(クゼン)として悟(さと)り
宋忠と賈誼、ハッと目覚める思いで
獵纓正襟危坐,
纓(エイ)を獵(と)り襟を正して危坐(キザ)す。
冠のひもに手をかけ襟を正して、正坐の姿勢をとった。
もう一つは、北宋の詩人・蘇軾(ソショク)の詩,「前赤壁賦」です。長い詩ですので【襟を正す】の部分を記載します。
客有吹洞簫者 客に洞簫(ドウショウ)を吹く者有り
客の中に洞簫を吹く人がいて、
倚歌而和之 歌に倚(よ)りて之(これ)に和す
歌に合わせてこれを吹きました。
其声鳴鳴然 其の声鳴鳴然として
その音色はむせび泣くようであり、
如怨如慕 怨むが如く慕うが如く
怨むようで慕うようであり、
如泣如訴 泣が如く訴えるが如く
泣くようで訴えかけてくるようで
余音嫋嫋 余音(ヨイン)嫋嫋(ジョウジョウ)として
余韻が細く長く続いて、
不絶如縷 絶えざること縷の如し
細い糸のように途切れることがありませんでした。
舞幽壑之潜蛟 幽壑の潜蛟を舞はしめ
深い谷間に潜む蛟を踊らせ、
泣孤舟之寡婦 孤舟の寡婦を泣かしめ
舟に乗っている寡婦を泣かせるのでした。
蘇子愀然 蘇子 愀然(シュウゼン)として,
蘇軾は態度を改め。
正襟危坐而問客曰 襟を正し危坐して客に問ひて曰く
襟を正して座って客人に尋ねて言いました。
何為其然也 何為れぞ其れ然るやと)
どうすればそのような音色が出せるのですか。